2017年12月3日、名古屋能楽堂特別公演。能は「鉢木」と「葛城」の二曲。間に入る狂言は「木六駄」で、この三つは雪繋がりである。
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能「鉢木」
- 作者不詳
- 鎌倉幕府の第5代執権最明寺入道北条時頼が旅僧に姿を変えて諸国を旅する途中、上野国(こうづけ・群馬県)佐野で大雪に会い、一軒の家に宿を頼む。貧しい主は一度は断るが、気の毒に思って呼び戻し、自分が大切にしている盆栽の木(鉢木)を火にくべて客人に暖を取らせる。旅僧が尋ねると佐野源左衛門常世と名乗り、落ちぶれてはいるが鎌倉に大事が起これば一番に馳せ参ずる覚悟だと意気を語る。▶ある日鎌倉で兵を集めるという触れ(早打)があり、佐野常世が痩せ馬で駆け付ける。北条時頼はこれを探し出し、褒美として、裏切りによって失った領地に加え、加賀国梅田、越中国桜井、上野国松井田の三荘を与える。(これは常世が火にくべた梅、桜、松の木に因む。)
- シテ(佐野常世): 久保信一朗(観世流)
- ツレ(常世の妻): 吉沢 旭
- ワキ(旅僧/北条時頼):橋本 宰
- ワキツレ(二階堂某): 橋本 叡
- アイ(二階堂下人): 鹿島俊裕
- アイ(早打): 井上松次郎、今枝郁雄、井上蒼大
- 笛: 鹿取希世
- 小鼓: 後藤嘉津幸
- 大鼓: 河村総一郎
- 有名な演目だが、能としては異色なのではなかろうか・・・
- 幽霊が出ない。つまり現在能。
- シテは前後幕を通じて直面(ひためん)で常世を演ずる。
- ワキが前後幕で衣装を変える。(旅僧→北条時頼の本来の姿)
- 前半(常世の家の中)は、ワキとシテの対話台詞で進行する。
- チラシの上の写真は、雪を被った大切な盆栽の木を切っている常世。直面のため役者さんの顔そのままなので貧乏そうに見えない。(笑)
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能「葛城」
- 作者未詳
- 四番目物
- 出羽国羽黒山の山伏一行が大和国葛城山で吹雪に見舞われたところ、里女が表れて宿を申し出る。里女は「標(しもと)」と呼ぶ薪を焚いて山伏をもてなす。山伏たちが勤行を始めると、女は自分は葛城山の女神で、岩橋を掛けられなかった罪のため、葛で縛られて苦しんでいると言い、消え去る。▶山伏たちが葛城の神を慰めるべく勤行していると女神が現れて大和舞を舞う。そして、見苦しい顔を恥じて夜が明ける前に岩戸に消えてゆく。
- ①神、②男、③女、④狂、⑤鬼、という分類では①か③かと思うが、四番目物とされるらしい。
- シテ(里女/葛城の神):玉井博
- ワキ(山伏): 飯冨雅介
- ワキツレ(山伏): 椙元正樹
- 笛: 大野 誠
- 小鼓: 後藤孝一郎
- 大鼓: 河村眞之介
- 太鼓: 加藤洋輝
- チラシの写真(下)は葛城の神の大和舞。冠に葛がからまっている。
能楽堂を出ると既に暗く、満月が出ていた。